美波の女優魂炸裂、蜷川幸雄の演出魂は爆裂/「エレンディラ」


さいたま芸術劇場は、埼京線与野本町から徒歩7分。でも、この真夏の炎天下を歩くのは、7分が10分にも20分に感じられます。午後12時半開場の少し前に到着。ここには初めて来たので、施設内を探検。そしたら、1階の広場みたいなところで、サックス・スーザフォン・ピアノ・パーカッションの楽団が演奏してました。その素敵な響きにしばし耳を傾けていたら、彼らは演奏しながら上の階へ移動していきました。


自分はトイレを済ませてから、劇場大ホールへいざ出陣。上演時間はなんと4時間10分(*1)。途中の休憩は15分と10分なので、トイレは早めに確保しましょう。


エレンディラ」は、コロンビア出身のノーベル賞作家ガルシア=マルケスの原作を、坂手洋二が戯曲化、蜷川幸雄が演出した作品。会場となった大ホールは、なかなかいい雰囲気のハコでした。座席側は傾斜がほどよく、どの席からも舞台をしっかり見渡せます。ちょっと目の前がスモークで見えにくいのが気になったけど。


オープニングに流れるマイケル・ナイマンの手によるテーマ曲は一発で気に入ってしまった。砂漠の荒涼とした雰囲気を醸し出していて、この作品にぴったり。ありがちなコード進行と思わせておいて、ちょっとずれてる。その後何度も劇中に登場し、頭から離れない。うーん、CDがほしい。


以下ネタばれありまくりです。


緞帳代わりのカーテンの向こうで、魚とバスタブが空を飛んで行く(*2)。これだけでも充分異次元空間なのだけれど、さらに舞台の奥から何やらゆるゆると一直線に行列がやってきました。先頭はアコーディオンを演奏する小人さん、いわゆる小人症の役者さん、つまりは異形の人(*3)。さらに異次元感覚が増殖します。この行列のなかに、なんとさっきまで広場で演奏していたメンバーが出ているじゃないですか! ちょっとびっくりしました。これも演出の一環?


ウリセス役の中川晃教・アッキーは2005年の「モーツァルト!」以来。今年秋に再演があるけれど、まずはこの舞台でお手並み拝見。いやあ、やっぱりアッキーの演技は情熱的で好きですね。今回の舞台では、少ないながらも歌までついてて、この歌がとってもいい。ミュージカルだと「こっから歌うぞ!」って感じで、唐突に歌が始まるという印象(*4)があるんですが、この舞台では芝居の流れから、本当に自然に心から歌が出てくる感じです。それにしてもアッキー、いい声してるなあ。アカペラで歌われると、しびれます。


そしてアッキー以上の大注目は、娼婦エレンディラ役の美波。製作発表で「脱ぎます」と言ってたのは知ってましたが、そうはいっても20歳とこれからまだまだ先がある女優さん、まあちょろっと見せるくらいかな、と思ってました。そして1幕、祖母の命令で娼婦としての初仕事のシーン、背中を向けているけど全裸になりました。つまり、お尻まで丸見えです。見ているこちらがドッキリ。でも正直、これでヌードシーンは終わった・・・、と思ってました。


いやあ、ぶっ飛びました。浅はかでした。そのあとはもう、これでもか!というくらい見事な脱ぎっぷり(*5)。思わず手にしているオペラグラスでのぞこう、もとい眺めようかと思いましたが、そういう風に見てはいけないと自制(?)しました。ウリセスとエレンディラが結ばれるシーンは、抱き合いまくり、キスしまくりのすごく情熱的なベッドシーン。なのに、なぜか少しもエロくない。本当に2人は愛し合っているんだ、ということがヒシヒシと伝わってくる。歌いながらのベッドシーンなんて、もう想像を遥かに越えた世界。でも、全然アリなんです。自然なんです。必然なんです。


美波、はっきりいって演技上手いです。初めての蜷川作品、そしてヌード。そんなとんでもない状況のなかでの堂々たる演技に、心底感心しました。


ヌードといえば、お祖母さん役の嵯川哲朗さんのヌードもありました。こちらは大変な巨乳です(笑)。嵯川さんもその強烈キャラで存在感満載でした。


ちなみにポスターではこの3人の他に國村隼さんが重要な扱いになってましたが、出番は3幕からなのでほとんど出てません。國村さん目当ての方はがっかりなさらぬようご注意。


それにしても、挑戦し続ける蜷川演出は健在です。オープニングのカーテンといい、スモークを舞台上部まで使ってのライティングといい、雨のシーンで本当に舞台上から雨を降らせちゃう(*6)のといい、舞台転換をするのが役者たち(?)で客席から見えたり(*7)と、とにかく斬新です。うーん、言葉で説明するのは難しい。とにかく見ていただきたい。


ラストシーンはとても美しいです。舞台奥をウリセスが白い羽を羽ばたかせて宙を飛び、手前ではエレンディラが真っ赤な衣装を着てベッドの上で天空に手を差し出す。そのコントラストに、思わず感動しました。ああ、やっぱり自分の拙い言葉では表現できません。ソワレだと終電が気になって帰らざるを得ない人が多くなりそうですが、それでもラストシーンはぜひ見てもらいたいです。


しかし蜷川さん、元気ですね。この舞台を作るだけでもめちゃめちゃ大変だろうに、この作品の前は「お気に召すまま」、その前は「NINAGAWA十二夜*8)」と1ヶ月単位で演出やってて、いったいいつアイデアを考えているんだろう。そのサービス精神に、ますます目が離せなくなりました。


今年、あと1本くらい蜷川作品を見たいな。

*1:「天保十二年のシェイクスピア」と同じくらいですね。

*2:もうひとつ何か飛んでたんだけど、忘れちゃいました。

*3:日野利彦さん。ネットで検索してみると、昔から映画とか舞台に活躍されている。

*4:セリフがほとんどないんで、しょうがないっちゃしょうがないんですけども。

*5:アッキーももっと脱がんかい!、と思っていた人は多かったのでは?(笑)

*6:雨が止んだあとそのたびに、出演者がモップと雑巾できれいに掃除してました。もちろん、その後ろでは芝居が続いていて、掃除も芝居に含まれています。

*7:車も人が動かしてました。

*8:先月、観劇してきました。