亡国のイージス

この映画は、真田広之中井貴一佐藤浩一・寺尾聰という、いまの日本を代表する4人の名優が揃うことで話題である。制作発表の場では、彼らの存在が全面に押し出され、この4人の丁々発止のやりとりが映画の見どころなのだろうと思っていた。


そもそも、4人が同じレベルで主演なのかと思っていた。そう思っている人は、自分だけではあるまい。蓋を開けてみると、真田さんが主役だということがよくわかったが・・・。
プロモーションの方法だから、まあ仕方ないところもあるだろう。それにしても4人のからみは、想像していたものと全然違った。特に佐藤浩一は、他の3人とほとんどからみがない。


とまあ文句を並べてみたものの、これは当初抱いていたイメージとの違和感なのであって、内容についての文句ではない。いや、むしろ非常によくできた映画である。


話は、いそかぜと緊急対策室(国家安全保障会議というらしい)の2箇所をいったりきたりして進んでいく。福井晴敏原作のストーリーは、メッセージ色の強いもの。平和ボケした日本人に対して、喝を入れる。中井演じるヨンファのセリフが印象的。「よく見ろ日本人。これが戦争だ」


勝地涼。実は準主役といってもよいくらいの、大役である。最初から最後まで出づっぱり。難しい役柄だったが、なんとか演じきった感じ。アクションもしっかりこなしていた。


原田芳雄。人間くさい総理大臣を演じていた。なんとサマになる役者なのだろう。いそかぜが乗っ取られたとき、政府に緊急対策室が設置され、その会議の場へ登場するシーンで、心底気分悪そうにつぶやく。「なんで俺のときに・・・」。このセリフだけで、スクリーンに釘付けである。


寺尾の部下で、名の知れた俳優がたくさんいた。吉田栄作谷原章介豊原功補あたり。彼らは本当にちょい役であるが、残り30分くらいで各人のキャラが描かれる。谷原演じる情けないキャラクターが、なんだか本人のキャラとだぶって見えて(笑)、面白かった。安藤政信も出演していたらしいが、どこにいたのかまったく不明。女性の隊員がひとり(チェ・ミンソ)。セリフなし。存在意義がわからず。きっと原作を読めばわかるのだろう。


上演時間127分に収めるために、いろいろ削ったシーンがあるはず。そのため、登場人物の背景等の説明は、ときどき飛躍していて理解しきれないこともあった。しかし、それを上回るストーリー展開、アクション、である。阪本順治監督の作品ははじめて見たが、いろんな意味で柔軟な監督なのだと思う。


比較するまでもないが、同じ福井晴敏原作の映画「戦国自衛隊1566」とは、ずいぶん違う仕上がりだ。イージス艦が海の上を進んでいく姿を真正面から映すシーンは、その威容に圧倒される。オーケストラで奏でられる音楽もよい。


日本でもこれだけの映画が作れるのだ。


『よく見ろ日本人。これが映画だ』


いや、そこまで言うと褒めすぎか。だが、一見の価値はある。