偶然見つけたすごい美術館

都内某所白金台(笑)の坂道をゆるゆると登っていたら、落ち着いた佇まいの、人気が無い洋館があった。人気は「にんき」ではなく「ひとけ」である。一見して何の建物かはまったく分からず。入り口の左に書いてあった文字で、初めてその建物が何かを知る。「松岡美術館」だった。


http://www.matsuoka-museum.jp/


その名は聞いたことがあったが、どこにあるかはまったく知らなかった。あまりにもひっそりとしていたので、てっきり休館日かと思っていたが、「フランス近代絵画展」とある表の看板を見ると今日は営業日であり、しかもあと1時間はないが、まだ開いている時間である。せっかくなので、おそるおそる入ってみた。


自動ドアが開くと、その向こうには静かな異次元空間が広がっていた。いや、美術館の空間というのはおしなべて異次元なものだ。しかし、ここは表の閑静な住宅街からのギャップが激しい。いや、閑静という意味では一緒なのか。自分でも何に違和感があるのか分からず、少し混乱した気持ちを抱えたまま、展示室を回り始めた。1階に3つ、2階に3つある展示室は、以下のテーマで作品が並べられていた。こだわりがあるようなないような、不思議な取り合わせ。


ゴールデンウイークだからか、館内に人は少ない。その分ゆっくり鑑賞できるので、その方がこちらとしてもありがたい。また、展示室そのものもずいぶんと空間にゆとりがある。なんとぜいたくなのだろう。美術館でこんな気分に浸るのは初めてだ。


近代絵画の展示室で、ユトリロの絵を見ていた。おそらく白の時代の作品だろう。寒々とした空気の中に、パリの裏通りにある建物が描かれていた。そうかと思うと、その隣にはカラフルな絵がある。まるで春の陽気の空気を描いているようだ。作者を見ればこちらもユトリロ。こんな明るい絵も描いた人だとは知らなかった。


そんなことをつらつら考えていたら、突如として耳がキーンと痛くなる。何ごとかと思って足を動かそうとしたところで、金しばりにあったように体が止まった。まわりには誰もいない。静寂が訪れる。そう、音がないがゆえの「キーン」だったのだ。表の車の音や鳥のさえずりや風の音は、一切聞こえない。ここは静寂の世界。


すごい美術館があったものだ。ビッグネームの作品が、身近なものとして見ることができる。また来よう。今度はもっと時間にゆとりをもって。