舞台上に浮き上がる兄弟愛/「レインマン」


言わずと知れた大ヒット映画の舞台化である。ちなみに映画は見たことがないのだが、それでもこの舞台のチケットを買ったのは、生の椎名桔平を見てみたかったからである。あと、共演の橋爪功ともども演技派なので、見ごたえがある演技合戦が楽しめそうだったからというのも大きな理由だ。


会場はグローブ座。最寄りは山手線の新大久保駅。電車内の窓から見たことはあったが、いままで一度も観劇したことはないハコだ。マチネだったので、お昼ころ駅をたむろしていると、同じくこれから観劇に行くと思われる女性たちが何組か待ち合わせをしていた。線路沿い方面を北に歩いて5分くらいして現地到着。


グローブ座というだけあって、客席は舞台を中心に3階まで円形に取り囲んでいる。舞台上のセットはいたってシンプル。回り舞台の上に幾何学的な形をしたかなりの高さのついたてがある。それに加えて、長方形や正方形をした透明な台がいくつかあり、場面に応じて椅子やベッドに変身する。変身するといっても、具体的に何かが変わるのではなく、そういう使われ方をするというだけだが。


あらすじは公式ホームページを参照。


チャーリーは最初兄を嫌っていたのに、接しているうちに次第に兄に心を開いていく様が、しっかり演じきられていた。そして兄もまた、次第に弟に信頼を寄せる。最初、絆のかけらもない兄弟だったのに、シーンが重なるにつれ、みごとに兄弟愛が舞台上に浮かび上がっていた。感動。


まじめなだけの舞台ではない。時間やをきっちり守らないと気がすまないレイモンドの、そのまじめさゆえに巻き起こるドタバタ騒動に、自分を含めて会場からしばしば笑いが起こっていた。


兄弟でサッカーのリフティングをやるシーンがあって、2人で地面にボールを落とさず10回連続でやろう、というシーンではほとんどが桔平が担当していた。そのあと、20回連続というのもあったが、やはり途中からチャーリーが連続15回くらいやって、最後の1回だけ兄にパスしていた(笑)。この人、もともとサッカーやっていたんだったかな。


以下は出演者への追加感想コメント。

  • チャーリー・バビッド … 椎名桔平。立っているだけで、抜群の存在感。テレビや映画でうける印象と、舞台での印象がほとんど変わらない。それにしても、10年前もかっこよかったが、いまでも変わらずかっこいいのは、いったいどういうことなんだろうか。彼には10年間というものは、外見的になんの影響も与えないのだろうか。
  • レイモンド・バビッド … 橋爪功自閉症で、記憶力が抜群にいい役。長セリフがたくさんあって、覚えるのに大変だったろう。しかし、その長セリフを含めて、自閉症の兄を浮かび上がらせていた。不器用ながらも弟を思いやる姿は、ググッと観客の心を掴む名演。おみごと。
  • スザンナ・パルミエリ/ウェイトレス … 朴路美(路は正しくは王ヘン)。今回初めて知った役者だが、声優としてはずいぶん活躍されているようだ。体が細いのに、椎名に負けない存在感。チャーリーとの軽いベッドシーンもあり、体当たりの演技。二役のウエイトレス姿は、ミニスカートに怪しいメガネをかけて、かなり萌え萌えである。そのキャラのあまりの変貌ぶりに、一瞬同一人物とは思えなかった。
  • ウォルター・ブルーナー … 大森博史。出番がほとんどなかった。ゆえに、残念ながらとくに感想もなし。パンフレットのコメントが長塚圭史だったのでどういうつながりがあるのかと思ったら、去年の「エドモンド」に出演していたんだとか。


いままで見た舞台のなかで、3本の指に入る傑作だ。これだけ満足いく作品だったので、パンフレットを買った。この舞台ができるまでには、企画から上演までの段階でいろいろ苦労があったらしい。それでも、これだけのものが完成したのだ。キャスティング&脚本&演出を担当した鈴木勝秀の勝利といえる。


1幕め50分、2幕め1時間10分、休憩15分で、合わせて2時間15分という構成。しかし、2幕めは内容が濃かったので、それ以上の時間がたっているように感じた。


唯一の問題点。それは芝居そのものではなく、グローブ座の作りだ。今回はA席を買ったら3階席だった。3階席はふつうに座ると、目前の仕切りのおかげで舞台が見えない。これは致命的。上演中、やや前かがみになって身を乗り出す必要があるが、結構疲れる。だから、もう一回観に行ってみたい。S席を買って、1階席でゆったりじっくり観てみたい。


最後におまけ。椎名を初めてドラマで見たのは、テレビ朝日でもうかれこれ10年まえに放送された、知る人ぞ知る名作深夜ドラマ「BLACK OUT」だった。のちに奥さんになった山本未来との共演である(映画「不夜城」が最初の共演なわけではない)。ずっとDVD化しないかと待ちわびているが、いまだにその知らせは来たらず。いつか発売されないだろうか。