本場の笑いを間近で堪能/なんばグランド花月
大阪には「筋」がたくさんある。そのうちのひとつ「御堂筋」は歌のタイトルにもなっていて、あまりにも有名だ。「御堂筋」という塊で一つの地名を意味しているのかと思っていたが、実はそうでないということを今回初めて知った。筋とは、南北の道のことなのである。地元の人にとっては当たり前と思うだろうが、よそ者にとっては知らなくて当たり前だったりする。そういえば、大阪と梅田が同じ場所であるというのも、行ったことがない人間にはわからないものだ。
心斎橋のホテルに泊まっていた。ランチは友達と食べることにしていたが、午前中の予定は特に決めていなかった。ふと地図を見ると、ホテルからなんばグランド花月(NGK)まで歩いていける距離であることが判明。しかも、第一回目の公演はおあつらえ向きに9時45分からで、12時すぎに終わる。これは行くっきゃない。いそいそと支度をし、暑くなりそうな太陽を浴びながら歩き出す。朝の道頓堀やら難波やらを眺めつつ、大阪を軽く堪能した気分。そして、お目当てのNGKが見えてきた。こんな早い時間だというのに、もう人でごった返している。
チケット売り場に行く。なにせ笑いの本場、素人の自分は失礼があってはならないと思い、まずは手堅く2階席を注文する。ところが窓口のおねいさんに「おひとりさまでしたら、1階前から4列目の席がありますが、いかがいたしますか」と言われて、すぐさま心変わり。金4000円也を支払い、ニコニコしながら劇場へ突入。なんと、奇跡のシートは二日連続だったのだ。
場内はすでに9割方席が埋まっていた。演目は、6組の芸人が持ち時間各10分ずつでネタを披露、そのあと休憩を挟んで吉本新喜劇が1時間。午前中なのであまり期待していなかったが、ところがどっこい、かなりのビッグネームが登場してくれて、望外の幸せだった。
- シンクタンク
- 細いのと太いのの漫才コンビ。なかなか上手い。そのうち売れてもおかしくないと思うが、芸歴13年ともう中堅の域。
- おかけんた・ゆうた
- 見たことも聞いたこともない二人組。芸歴23年だとか。こんな芸人がゴマンといるのが吉本の吉本たる所以。ネタは大きなキレはないが、手堅い。吉本というよりは、松竹芸能の雰囲気。
- 中川家
- 言わずとしれたビッグネーム。つかみは波に乗れずちぐはぐな感じだったが、途中のコントから調子がついてきて、すっかり場をさらっていった。さすがに上手い。
- 桂小枝
- 探偵ナイトスクープのレポーターでしか見たことないが、一応落語家ということなので高座に登って芸を披露。といっても、落語をやるわけではなく、単なる漫談だった。ネタを事前に考えず、出たとこ勝負でしゃべって帰っていった感じ。
- B&B
- 洋七は佐賀に建てた家の代金支払いで訴訟を起こされている。その記事を見たばかりだったので、ネタにするかと思ったが、まったく出てこなかった。おそらく、裁判に差し支えるのだろう。洋八は久しぶりだったが、髭がぼうぼうで、老けた感じがした。しかし、漫才は四半世紀前に一世を風靡しただけあって、さすがに上手い。途中でコンビの呼吸が合わず、洋八が一人だけ終わったと勘違いして挨拶をしてしまったところが、非常に面白かった。
- 宮川大助・花子
- 相変わらずの夫婦漫才。花子は昔痩せててキレイだったのに、いつの間にかすっかり大阪のオバハンになってしまったなあ、と妙な感慨を浮かべながら笑わせてもらった。
この後、吉本新喜劇が上演される。池乃めだか、島木譲二、吉田ヒロといった知った顔ぶれがいたが、残りは知らないメンバーであり、きっと大阪でしか見られない芸人たちなのだろう。島木譲二がとにかく自分のネタをやりたくてやりたくてしょうがない様子。しかし、観客も飽きがきていて、ほとんど誰も笑わない。最初見たときはぶっ飛んだ笑いに感動したものだが、もはや芸人としての旬は過ぎたのだと感じさせられた。見苦しくならないうちに、より劇的に方向転換した方がいいのではないだろうか。