初めてのシェイクスピア観劇は若ハゲのハムレット/ハゲレット


近藤芳正さんは好きな俳優の一人である。三谷幸喜の名作舞台「笑の大学」で椿一を演じていたが、それがNHKで放送されていたのをたまたま見て以来のファンである。


以来のファンというのはちょっと誇張だ。テレビで見かけるとなんとなくチェックしていたくらいで、じつはファンなどとは呼べないかもしれない。ちなみに、初めて舞台の彼を観たのは、去年のダンダンブエノの公演だった。


今回この「ハゲレット」のチラシを初めて見たのは、去年11月。そもそも近藤さん主演というだけでもヨダレものなのに、加えて強烈な写真にすっかりやられて、「絶対行ってやる!」と心に誓ったものである。そのときは、この作品はハムレットのコメディに違いない、と信じて疑わなかった。


その認識が誤っていることに気付かされたのは、演出の山田和也さんがマメに更新しているブログの記事からである。

 『ハゲレット』は、シェイクスピアの4代悲劇の1つである『ハムレット』を、ラッパ屋の鈴木聡さんが「良く分かり、しかも笑える」様に脚色した悲劇である。『ハムレット』のストーリーをもじって別の話が展開したり、似て非なる名前のキャラクターが活躍したりするコメディ化ではない。


じつは、シェイクスピア観劇は1度も経験がない(「天保十二年のシェイクスピア」は観たが)。そもそも、ハムレットだってあらすじすら知らない。知っているのはあの有名なセリフ、「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」くらいだ。どうしよう、といまさら思っても、もうチケットは取ってしまった。どうしたって見るしかないのだ。


というわけで、公演当日。紀伊国屋ホールは初見参。ロビーでパンフレットを売っていたが、見向きもせずに席に向かう。中でも売っているという情報を、前もって仕入れていたからだ。これから見に行く方は、会場に着いたら何はともあれ、まず席に向かうことをオススメします。


開演。ハムレットの独白のあと、いきなりガートルードとクローディアスのからみ。しかも、2人で名前を呼び合っているだけなのに、その仕草で2人の関係をあますところなく伝えてしまう。久世さんの演技が出色だ。


ホレーシオの陰山さんは、かなりかっこ良かった。笑いのツボも押さえつつ、きりりとした部分もしっかり演じる。狂言回し的な役だが、きっちりこなしていた。
オフェーリアの笹本さんは、これが初めてのストレートプレイとは思えないくらい安定していた。ピーターパンから培ってきたキャリアがものを言うのか。途中、鼻歌を口ずさむシーンがあったが、めちゃくちゃきれいな鼻歌だった。さすがミュージカルスター。


ベンガルさんと近藤さんには、なんとなく迷いがみられたように思う。とくに、近藤さんは前半部分が乗り切れていなかったか、セリフが少したどたどしく感じられた。ハムレット役ゆえに膨大なセリフ。それがまだ体に染み付いていないのだろうか。


ラッパ屋鈴木聡さんの脚本は秀逸。きっとわかりにくいのであろうシェイクスピアの戯曲を、若ハゲという強力なネタを武器に、とっつきやすいものに変えてしまった。しかし、話の本筋はきちんと押さえている。小田島さんのお墨付きがあるのだから、単なるおちゃらけではないことが保証されている。


ただ、笑いのシーンが随所に盛り込まれているため、シリアスなシーンとの入れ替わりが頻繁になってしまい、観ていて舞台に集中しづらい面があった。このあたりは演出でうまく融合できなかったのかなあ、と素人考えで思った。そんな簡単なわけはないのだが。山田さんのブログでも、今回の作品はかなり苦しんだ様子が赤裸々に綴られている。


それにしても、久世さんは芝居が上手だ。じつは、ミュージカル「モーツァルト!」で伯爵夫人を演じていたとき、歌にはあまり良い印象がなかったのだが、今回の演技は抜群だった。さらに、終盤では3の線の演技で、客席に笑いの渦を巻き起こす。いまさらながらだが、自分的人気は赤丸急上昇である。


この舞台については、公演回数が増えると、もっとこなれてくるのではないかという気がしている。とくに、近藤さんの演技は後半はなかなかよかったので、前半がもっと安定してくるとぐっと面白くなると思う。


近藤さんについては、6月のダンダンブエノ公演も楽しみだ。

陰山さんは、5月の「Myth」でまた会えるといいな。(篠井英介さんも出るし)

笹本さん&山田さんは、6月の「ミー&マイガール」・・・、これはいまいち食指が動かないんだな。


<スタッフ>

監修・翻訳 小田島雄志
脚色 鈴木聡
演出 山田和也

<キャスト>

ハムレット 近藤芳正
オフェーリア 笹本玲奈
ホレーシオ 陰山 泰
ポローニアス 石田圭祐
レアティー 鈴木浩介
ガートルード 久世星佳
クローディアス ベンガル